艶に案内された当主の間というのは、個人で使うには無駄に広い大広間だった。

そういえば前に見た大河ドラマで、太閤秀吉がこんな部屋に座って家臣と話していたのを思い出す。

…野須平の城に住まう亜吸血種の女王…。

狙うは覇業…。

そう考えると、この部屋も彼女には似合いか。

私は数メートル先で肘掛けにしなだれかかっている、だらしのない態度の女を見た。

野須平しとね。

現在の渡蘭市で唯一、出碧家に対抗し得る勢力であろう、野須平家の頂点に立つ女…。

「今回はお招きに預かりまして、光栄に思っております」

「棒読みで言う事かい」

私の形だけの挨拶を、しとねはそんな言葉で切り返した

「まぁいいさ、座んな。一緒に茶でも飲もうと思って呼んだのはほんとだからね」

煙管の先端で畳を指す。

「……」

座する事で初動が遅れる事に一抹の不安を感じつつ、私はしとねの言う通りにした。