「それは聞けないな」

俺は冷ややかな眼差しで艶を一瞥した。

「うちの当主に一人でこの屋敷内を歩けっていうのか?なら話は出碧邸で聞く」

「お連れの方はこの部屋でお待ち下さい」

「聞けない」

「お待ち下さい」

「聞けないって言っ…」

「お待ち下さい」

にわかに空気が凍りつく。

じわじわと広がる、突き刺さるような殺気。

そんな俺の殺気を、艶は真っ向から受け止める。

全く、大したタマだ。

「武羅人」

儚が俺を制した。

「彼女に従いなさい。ここは野須平家の屋敷よ」

「…ちっ」

渋々殺気をおさめる。

まぁこうなるのはわかった上でお招きに預かったんだ。

今更うろたえるのも間抜けで滑稽だ。

「茶よりも酒だな」

俺は畳の上に胡坐をかく。

「かしこまりました」

艶は慇懃な物腰で答えた。