それに。

私は煙管をポンと膝の上に打ちつける。

野須平誠は『狗』として優秀だっただけだ。

『狗』以上に優秀なのなら他にもいる。

例えば…今私に報告をしてきた、この目の前の給仕とかね。

「艶(あで)」

私はその給仕の名を呼ぶ。

いや、正確には名前ではない。

字(あざな)のようなものだ。

生み捨てられていた天涯孤独の雑種の亜吸血種。

なかなか器量のいい娘だったし、気まぐれに拾って私の身の回りの世話をする給仕に育ててみたが、存外役に立った。

愛想がないのが玉にキズだが、まぁ優秀ならば作り笑いが出来なくたって問題はない。

「何でしょうか、しとね様」

無表情のまま。

艶は背筋を伸ばした正座のまま私を真っ直ぐに見た。