里菜ちゃんが加瀬くんの紳士論を語っている間中、私はぼんやりと天祢くんのことを考えていた。

天祢くんのこと、たくさん知れたような気がしたんだ。いや、たくさんってことはないんだけど。
あまりにも知らなすぎたんだな、きっと。


ちゃんと、日誌を書いてくれること。すごく、綺麗に笑うこと。里菜ちゃんいわく、何気紳士なこと。


「……えへ」

「ちょ、咲?きっしょいよ?」

「きっしょいは酷いよー!」


あはは、と笑いながらそう言った私を見て、里菜ちゃんは苦笑いをする。
自分でも、なんで笑っているのかわからない。


「なんか笑っちゃうんだもん!」

「それね、笑いじゃなくて、にやけ。」

「……笑ってそういうことを言う、里菜ちゃんのドライなところが大好きですっ。」


里菜ちゃんとは、中学の時から親友だった。サバサバした性格の彼女と、里菜ちゃんいわく、馬鹿でのろまな私は、何故か気が合った。


「あ、そうだ。絵の締め切り、二ヶ月後。」

「え、」

「締め切り厳守だって、千代ちゃんいわく。」


町野千代子先生、通称千代ちゃん。美術部の顧問だ。


「っち、千代ちゃん鬼だあ!」

「頑張れよっ!私は終わったからっ。」

「お、応援嬉しいけど、里菜ちゃんてなんか厭味混じってる~!」