里菜ちゃんを見送って、私は日誌を開いた。

窓の外は、オレンジ色に染まっている。季節は、春。
暖冬だった今年の桜は、入学式の少し後に散って今はもう咲いていない。


「………はあ、」


何もする気にならなくて、私はシャーペンを机の上で転がした。

運動場では、美術部がスケッチを行っている。その中に里菜ちゃんを見つけて、私はそっと手を振った。


私は、美術部に所属していて、たいした実力も無いのに推薦でこの高校に入学した。

自分に、自信なんて持てなくて、最近は満足のいく絵も描けずにいた。


「……はやく、日誌書かなきゃ…。」


はあ、と溜息を着くと、私は再び日誌に目をやった。


「作間、終わった?」

「ううん。まだっ、ごめんねっ。」


そう言って首を振り、私はハッと目を見開いた。

教室には、もう誰もいなかったような気がした、のに。


「――っ!」


ハッと振り向いた私が見たのは、無表情に私を見つめる天祢くんだった。


「あ、天祢くん!?」

「うん?」


ゆっくり首を横に傾げ、天祢くんは日誌を手に取った。


「あっ!」

「……やっぱり。全然書いてないじゃん。」


天祢くんは、無表情なままそう呟く。
やばいぞ、怒ってる。無表情だもん、天祢くん!