なんだそれ、という風に彼は首を傾げた。


「うん、風邪ひいた時飲む薬なんだけど。」

「んー、わかんないや。飲んでみたいかも。」


美味しい?と、彼は首を傾げた。うーん、美味しいかな。


「苺味とか、今はあるんだよ!」

「いちご…。」

「苺、好きなの?」


うん、好き、と彼は頷いた。
けど、ダメだろ…。苺好きだから風邪薬って絶対おかしい!


「……やっぱ、ダメだよねえ…。」

「ん、何が?」


風邪薬だよ、と言おうとした瞬間、予鈴が鳴った。みんな席に着き始めたし、私も自分の席に戻った。


授業は美術だった。

スケッチをしながら、私と里菜ちゃんは他愛のない会話を交わしていた。
相変わらず、里菜ちゃんの紳士論は細かいと思う。


「で!紳士は電車に乗るときは、女の子に人が当たらないように空間を作るのっ!」

「それスーパーマンじゃーん!」


あはは、と笑った私の絵を見て、里菜ちゃんは溜息をついた。


「咲、まだスランプなの?」

「……うん、でも平気。ちゃんと頑張るっ。」


そう?と首を傾げた里菜ちゃんに、私はこくりと頷いた。
私のキャンバスは、まだ真っ白。

千代ちゃんの話を思い出して、私は深い溜息をついた。