近くの小さめの桜の木に手をついて、登る。


太めの枝から塀に飛び移って、桜の方に振り向いた。


いまだに桜の木の下で突っ立ってる男。


「痛そうだから細い枝には体重かけないでね」


「何言って…「また明日」


「待ってる。」


私の声を遮って、


微笑む男。


ざわめく桜が手を振ってるかのような錯覚を覚えた。


返事ができずにいる私を、警備さんの声が責め立てる。


結局返事もできないまま塀の向こう側に飛び降りた。


塀越しにあの桜を見ることはできなかった。