「週末の旅行計画なんだけど
ホテルの予約がなかなかできなくてね
私の別荘でいいかな?
…といっても元妻の別荘なんだが…
離婚の際に、私の物になったから
気兼ねなく過ごせるよ」

「多田野先生の別荘?」

「おいおい、『達明』って呼べよ
二人きりのときはそう呼んでくれただろ?」

「私たちは別れたはずです
多田野先生」

達明が急ブレーキで車を止めた

シートベルトをしていない私は助手席の椅子に額を強く打った

視界がチカチカした

「『達明』だろ?
いいんだよ、マスコミに電話しても」

「た…たつあき」

「そう、それでいいんだよ」

達明はにっこり笑うと、運転を再開した

こんな達明は知らない

何を考えているの?
何がしたいの?

おかしいよ
イカレてるよ

どうして…
優しいはずの達明が今は悪魔に見える

私の心を唯一理解してくれた人だと思ったのに、違ったのかもしれない

理解してくれたように見えただけ、こんなイカレた人を私は愛してしまった


馬鹿みたい

本当に馬鹿みたい


涙がこぼれる

自分が情けなくて
悔しかった

こんな男に心を開いた自分が情けないよ