ドルチェ

「あいって独り言多いよな」


漣だった。笑っている。汐奈に向けた作り笑いじゃない、本当の笑顔。


「うっさいよ馬鹿」


いつ、こんなに背が伸びたんだろう。小学校までは同じくらいで、中学1年の夏頃には抜かれたけれど、軽く見上げるほどになっている。
他にも、自転車のハンドルを握っている手は男らしくなっているし、声も低い気がする。
でも、野生児なところはずっと変わっていないと思うと、なんとなくほっとした気分になる。
自分だけ、周りから置いていかれているような気がするから…。


「で、どうすんの?」


「は?何が」


漣はハァとため息をつくと自転車の荷台をポンポンと叩く。


「乗ってくの?乗せてやるから乗れ」


「聞いてんのか命令してんのか分かんないんだけど」


「行っちゃうぞ」


自転車に漣がまたがり、ペダルに足を掛けて今にも漕ぎ出しそうな格好になった。


「ああああ!!乗る!乗ります!!待って、はい、鞄よろしく」


肩にかけていた鞄を漣に押し付けて荷台に横向きに乗っかって、遠慮がちに制服をちょこっと掴む。


「しっかり掴まんねぇと落ちるぞー」


いきなり走り出した反動で漣の広い背中に頭がぶつかった。