ドルチェ

大体見当はつく。笑顔を向けられてちょっとその気になって、恋しちゃった♪ってところだろう。


「やばい…って?」


なるべく自然に聞こえるように努力した。


「小谷くん!笑った顔とか、超可愛いし!!!
本気ですきになりそう…そのときはあいちゃん、協力してね♪」


やっぱり。


ここで「うん」と言えば話はまとまるけれど、言えない。
言ってしまったら、漣のことは凄く気をつけなければならなくなる。
これ以上自分のこと意外で気を遣うのは御免だ。


「…あいちゃーん?」


「あ、うん。そのときが…きたら、ね」


汐奈に掴まれている手を離して階段を降りる。


「また明日ね」


小さく汐奈に手を振った。


「…うん。また明日!明日、アド交換しようね!!」


きっと私の返事の仕方が気になっているんだろう。
もっと普通に「わかった!頑張って!」とかを想像していたんだろう。
私だって、漣が私にとって面倒な位置に居なければそういう返事が返せる。
本当に、面倒くさい。


汐奈が微笑んだのを確認して、玄関へ向かい、靴を履き替える。


春の暖かい風になびく、少し赤っぽい髪を三つ編みにした、小学校からのヘアスタイル。


この後姿を見ると、なんとなく心が落ち着く。


すっと温かい空気を吸い込む。