「きゃっ」
「っと…大丈夫か?」
ちゃんと前を向いていなかったせいで、誰かにぶつかってしまった。こけそうになったわたしをその人は支えてくれる
お礼を言おうと顔を上げると、支えてくれた人はスーツを着た男の人だ。多分サラリーマンかなんかだろう
「…ありがとうございます」
綺麗な人だと思った
少し茶色くてさらりとした髪の毛、切れ長の目、通った鼻筋。どのパーツをとっても綺麗だと言えるくらい
「いや、こっちもちゃんと見てなかった」
「そうですか。じゃあ……」
綺麗な人だとかそんな事思っても、これがきっかけでこの人と知り合いになったりする訳じゃないし、そうなる事を願っている訳じゃないから、わたしはお礼だけ言うとすぐに外れたヘッドフォンを付け、外に向かった
後ろからわたしを呼ぶ声に気付く事もなく
つけていた紅いピアスを落とした事も知らずに
「眠い……眠い……」
これがわたしとアナタの始まりだと、誰も気付く事もなく物語りは幕を開けた