「これ、前に言ってたやつ。

あいつに渡しといてくれない?」


卒業する美嘉先輩から預かったのは、
お世辞にも綺麗とは言い難い、ちょっと錆び付いた自転車のカギだった。

あいつってのは、来年度研究室に入ってくる人で私の一個上の先輩らしい。

部屋を4〜5人で共有することになるから、年上が後輩として入って来るのはなんとなくやりづらそうだった。

「あ、譲るって言ってたやつですね‥
うちに入って来る人でしたっけ。
どんな人なんですか?」

「松原仁っていうんだけど、知らない?
私の同級生で高校から一緒なんだけど、すんごいいいやつだよ!
背が高くて、こーんな垂れ目で、頭がツンツンしてる。」

先輩は必死にジェスチャーを加えながら説明してくれてるけど、私は全く解らなかった。