信号が青に変わると、

たくさんの人間が一斉に

横断歩道を渡り始めた。


道の向こう側はオフィス街と住宅街が、

こちら側は商店が軒を並べているため、

この横断歩道の往者と来者には

確かな違いがある。



いくつものスーツの背中に目を向けながら、

私も彼らの後を追う。


一方で、まばらな主婦や老人が、

私たちを避けるようにして

向こう側からやってくる。

きっと、朝食でも買いに出てきたのだろう。



圧倒的な数の差で、

この道はビジネスマンの持ち物になっていた。



一組の老夫婦が私の横を通り過ぎていく。

仲良く手を繋ぎ、

足速に渡るサラリーマンを避けながら―――。


私の負けだ。


この群集に紛れていれば、

私はこの道を悠々と歩ける。

しかし、私一人では彼らには敵わない。


彼らは『二人』なのだ。

しかし私たちは、

たくさんの『一人』が集まった群集に過ぎない。



彼らには敵わない。

それに気が付いている人間が、

この中にどれだけいるだろう。


私は道の真ん中で立ち止まり、

老夫婦の背中を見送っていた。