ダンボール箱の中には,黒い子猫が一匹いた。
「捨て猫か……」
テツは哀れむような目で子猫を見る。
カナミも子猫を見つめてみたが,やがてその視線はテツへと移ってゆく。
カナミはテツの,その横顔に見とれた。
「どうかした?」
視線に気づいたテツがカナミの顔を覗き込む。
「!」
カナミは慌ててブンブンと首を振る。
「そう。」
パラリラパラリラパラリラパラリラ…
「チッ…早く消えろっ」
テツがイライラしている。
仲間なのに,とカナミは思ったが,ふと昨日のテツの言葉を思い出した。

“あいつらに見つかったら廻される”

(もしかして……)
私を庇ってくれてるのかな,と小さな期待を寄せてテツの顔をチラと見る。
(だったらなんでテツはこんなに優しいんだろう……)
「よう,テツ。彼女さんか?」
「!!!!」
2人供,背後から降ってきた低い声にビクッとなって振り返った。
「あ…や……矢井田さん!!」テツが勢いよく立ち上がる。
「ウチはオンナ禁止や言うたやないの」
言うなり蹴りを入れられる。
「うっ………ぐ…」
止まらない脚。
「んな生ぬるい精神じゃウチに居る資格無いわなぁ」
「ぐっ…ぶっ……!!」
背中を壁につき,腹に蹴りを何発も喰らっているテツ。
それでも,精一杯の受けで必死に立っている。
「………!」
(何かしなきゃ…!!)
カナミは近くに捨ててあった鉄パイプを拾った。
「やめろ!!」
「!?」
カナミと矢井田が同時に反応する。
「カナミ…やめろ…」
「なんで……!?」
「いい度胸だなおい。」
「すいません!!許して下さい!!」
テツがガクッと膝をついた。