AM7:23
「カナミ,どこへ行ってたんだ?」
……………なんて誰も言わない。
ヒステリックな母親はまだ寝ているし,暴力的な兄は部屋に引き籠っている。
優しかった父親は3年前に他界してしまった。
それからだ。
家族が変わり始めたのは。
母親は家事をしなくなり,抑えていたヒステリックを爆発させ,毎日酒浸りになってカナミを殴ったり蹴ったりしてくる。
かつては優しかった兄も,突然引き籠りになり,学校に行かなくなった。
それから母親と一緒にカナミを殴ったり蹴ったりするようになった。
(いつか2人は元通りになる…)
カナミはそう信じて耐えてきた。



「ただいま…」
カナミは小声で言って階段を静かに上がった。
自分の部屋は2階にある。
幸い誰にも気付かれずに部屋に入れた。
ホッとして,学校へ行く支度を始めた。
ふと鏡を見ると,自分の顔が酷く醜く見えてしまって思わず鏡を伏せた。
少し前に,児童相談所だかなんかの人たちが家に入ってきたがカナミの痣を指摘されて追及されると困るからと母親と兄に庭にある倉庫に閉じ込められたのを思い出した。
あの時も顔には盛大な痣ができていて,クラスで大騒ぎになった。
担任には,痣が治るまで学校に来るなと言われてしまった。
それでも,友達は優しいから学校は嫌いじゃなかった。
それに,必死に勉強して合格した高校だから…
カナミは,鞄に必要なものを詰めて最後に,煙草の箱をしまった。
そして忍び足で二度と戻りたくない家を後にした。