店の裏に回り、裏口から店に足を踏み入れた。
俺が世話になった部屋は今は彰人の母親が使っている。
厨房にはマスターと彰人の母親の姿があり、客は相変わらず1人もいない。
「お久しぶりです。」
厨房の入り口で声を掛けるとマスターは変わらない笑顔で迎えてくれた。
「マツさん、久しぶりね。元気にしてた?」
彰人の母親も微笑みながら俺を迎えてくれる。
息子が警察に連れて行かれ、何も情報が入っていないのに不安そうにしていないのに驚いた。
「もっと早くに顔を出したかったんですが…。」
心配していないわけはない、だから少しでも何か情報を掴んでから来たかったんだ。
言い訳を口にする俺に、
「あら、マスターの味が恋しくなったんでしょ?それとも私に逢いたかったのかしら?」
彰人の母親は明るくおどけてみせた。
正直、顔を合わせ辛かった。
彰人を守れなかった俺が、彰人を大切に思う人にどんなツラ下げて逢えばいいのかわからなかった。

