遥夢が目を覚ます前に俺は掌に力を込めて遥夢の体を動けなくした。
本来この力は抵抗する人間を標的にするための力。
戦闘の為の力だ。
今は目的は違うが、俺の側で見張りたい遥夢の行動を縛るために使うんだ。
無抵抗な遥夢に力を発するのは心が痛んだが、これも遥夢を危険な事に巻き込まない為だと自分に言い聞かせる。
加減をして遥夢に力を注ぐと遥夢は僅かに眉を動かしただけで目を覚ますことはなかった。
だけどホッとしていられない。
竜一を欺き、奴らの企みを暴くために俺は緻密に行動しなければならない。
調べるんだ。
竜一に手を貸す人物の正体を。
それさえわかれば攻める手立てが見えてくるはずだ。
機械の操作のためベッドに寝ている遥夢に背を向けて作業に励んだ。
音声で遥夢を起こしてはいけないとヘッドフォンをつけての作業。
だからすぐに気付かなかったんだ。
遥夢が目を覚ましたことに。
背中に視線を感じて振り向くと、瞼を腫らした遥夢の痛々しい姿が瞳に映る。
本当は熱を持った瞼に冷たいタオルを当てて抱きしめてやりたい。
一人で泣き疲れるほど泣かせてしまったことを謝りたい。
だけど俺から出た言葉は気持ちとは反対の言葉だった。
「ひでぇ顔だな。」
「部屋から出てって!」
「ここは俺の部屋だ。」
「なら、私が出てくわ」
体は俺が動けなくした。
「動けねぇよ。」
俺の言葉に遥夢は顔を歪めた。
自分に何が起きたのかわからないから不安なのだろう。

