目の前には温室。
「ここだ。」
「あ゛?」
俺の返事なんか全く気にしない様子の彰人は温室の扉を開いて中に入っていく。
荒れ果てた温室内。
全く手入れをされていない。
雑草が温室の中を隠すように生い茂り、ガラス張りの温室の雑草がカーテンの役目をしているようだった。
「ここに何があるんだ?」
荒れた温室内に足を踏み入れながら益々俺は彰人の行動が理解できなかった。
「ここには思い出しかない。」
「あ゛?」
「ここにあるのは楽しい思い出だけだ。
今は何もない…。」
普段から口数の少ない彰人。
けど、屋敷に来てからは普段よりずっと彰人の口は重い。
何か深い事情があるのだろうと、俺も何も聞かなかった。
聞けなかったんだ。
「ここがまだ手入れされていた頃、遥夢は幸せだった。
奥様の焼いたお菓子と美味しい紅茶。
旦那様の優しい眼差し。遥夢はいつも笑顔だった。
でもお二人が他界してからは遥夢様は笑顔を失った。
救ってやりたいんだ。
遥夢がまた笑えるようにしてやりたい。」

