春香さんがどうして壊れたような、人形のようになったのかは私には聞かされなかった。


だけど想像がつかないほど私は子供ではない。


心が壊れてしまうほどの苦痛...。


背中が寒くなった。



心が壊れた春香さんは車椅子に座って毎日を過ごした。


そして誰にも心を開かずに、ずっと絵を描いて過ごしていた。


その絵は春香さんが大好きだった着物だった。


スケッチブックにデザインを書いて行く春香さん。


旦那様は少しでも春香さんの慰めになるようにとデザイン通りの着物をあつらえ続け、春香さんに着せ続けた。



新しい着物を着る時だけほんの少し春香さんが笑ってくれる気がしたと話してくれた旦那様はとても悲しそうだった。



抗争を始めたのは旦那様を裏切った旦那様の甥にあたる男。


何度か私も見かけたことがある。



その男が来る時は私は決まって温室に押し込められた。


マツと彰人さんに必ず温室でお茶に誘われるんだ。



それがわかったのもその男がマツ達の隙をついて温室に顔を出した時だった。



舐めるように視線を這わせる男に私は恐怖に体を震わせた。


赤い上下のスーツ姿にも驚いた。

温室に入ってきたた上下赤のスーツは何かの罰ゲームなのかと思うくらい滑稽で趣味が悪く私の目に映ったんだ。





でもその蛇のようないやらしい視線の男が全てを壊したんだ。



全部破壊したんだ。