「あの子、今日もいるんだ…」


ほら、
と雅が指差す方向には…


グラウンドから少し離れた黄色いベンチ。
そこに一人の少女が座っている。

栗色のふわふわした髪の毛がきれいだが、
かぶさってしまっていてよく顔がわからない。


手にはカバーの外された文庫本が開かれていた。


「いつも練習中ずっとあのベンチに座ってるよね」

「ああ、千草さん?」


ひとりの女子がいかにも怪訝そうな顔をして言った。


「どうせ雅君目当てでしょ。
あの子暗いからこっちまで来る勇気無いだけだよ」

「ね、何考えてんのかわかんないよね千草さんって。
私あの子が喋ってるとこみたことないかもぉ」

「てかそんなことどーでもいいじゃんっ!行こっ、雅君!!!!」


「うん…そうだね」


女子たちに手を引かれる雅の、
不敵な笑みには誰も気がつかなかった。