これは一人の少女が見た夢の物語だ。

もちろん、人間がレム睡眠下に見る壮大な夢じゃない。それは関係ない。いや、あまり関係ない、ぐらいにしておいたほうがいいかもしれない。あれは単なるきっかけだったんだから。まあ、それは追い追いわかっていくとわかっていくと思う。

実際に物語の主軸になっていたのは、儚く、無限の夢のほうだ。だけど、あいつが夢見ていたのは、宇宙に行きたいとか、時間旅行がしたいとか、世界一周がしたいとか、いいお嫁さんになりたいとか、そういう個人的で具体的なことなんかじゃなかった。もっと公共の福祉に則った、漠然とした夢だった。

何故僕が今さらこの物語を書き留めなくてはいけなくなったか、それは深く考えないようにして欲しい。ただ単純に、僕があの頃の気持ちを思い出したいと思ったからと、個人的な事情で今やっておかなくては、一生こういう機会に巡りあわないと思ったからだ。言っておきたいのは、また世界の終わりがきたとか、宇宙全体が萎みはじめたとか、そういった事実はないから安心して欲しい。

まず、何について語っていかなければならないだろうか?物事を順番に話していくとすると、まずぶち当たる壁は、僕らの街だろうか?たしかに、この物語では、あの街は重要な要素に違いない。今になって思うと、僕らがあの街に住んでいなかったら、一つ隣の市に住んでいたならば、あんな結末は迎えなかったのだろうか?少なくとも、沙希はあんな能力に目覚めなかったと思う。そこに理由とか、確証はないけれど、そうだと思う。あんな儚い夢も見れない街じゃ仕方ない。

まあ、とりあえず、まずは僕らの街、葉山市についてだ。