塩だけでもかなりの重みがあるのだが、その上で横になっている張飛と少女の体重を加えてすら軽々と関羽が荷車を引いて進んでいく。


 「おい」

 「ああ」

 張飛が身を起こして周囲を窺った。鳥の鳴き声一つしない。荷車が進む音に隠れて、風によるものか草木が擦れ合う音がわずかに聞こえるぐらいである。

 「前に人だ。二人」

 張飛が荷車から音も無く飛び降りると、いかにも山賊のような格好をした二人が動作だけで静止を促してきた。

近付いて見ると腕に黄色の布が巻かれている。最近流行りだした太平道を旨とする新興宗教員の証だ。宗教の枠に留まらず、武装蜂起して国に反逆までしている独自勢力となっている。

 「よし荷車を捨ててすぐに逃げろ。賊に囲まれてるぞ」

 二人いる中でも年上で武骨な男が囁くように言った。

もう一人の若い男は関羽の横にきて交代する的な仕草をした。暗くて確とは分からないが、頬に何か書いてある。

 「賊はお主達であろう。命を捨てたくなければすぐに逃げるがいい」