待てとばかりに追おうとした張飛を関羽が止めた。

 「あの方は漢だ。故に信用できる。賊を退治してから追えばよい」

 「どんな基準で測ってんだよ、てめえは。顔見ただけで分かんのか」

 「漢は漢を知る。俺は以前に漢らしく生きようと意気込み額に漢と刺青を彫ろうとした。だが出来なかった。顔に刺青を掘る根性が圧倒的になかったからだ。だがあの方は大きな刺青を、しかも愛と掘っている! 並大抵の漢度ではない!」

 「お前の物差しは顔面刺青か!」

 「張飛。お前も顔に虎髭の刺青を掘ってるだろう。だから義兄弟の契りを交わしたのだ」

 「出会った時の壮大で感動的な事件は関係なく顔面刺青で決めたのかよ!」

 「おい、いい加減に静かにしろ。賊に見つかる。早くこっちに来て隠れるんだ」

 周倉の苛立ちを無視して関羽は腕の荷物を地面に投げた。

 「今夜は記念的な日になるかもしれん。簡擁に記録させるから起こすんだ」

 「青山で暴れた時から半年経ってない。まだ充電が足りないだろ。無理に起こして壊れちゃかなわないから自分でやれよ」

 「機械は苦手だ。壊したくなる。いいから強制起動しろ」

 張飛は肩をすくめると倒れている美少女の服の内側に手を入れて地肌に触れた。

 周倉が唾を飲み込んで見てると、美少女は目がカッと開いて機械音を鳴らしながら立ち上がった。

 その頭上に赤い輪が不規則に回っている。

 「こいつは――いったい」

 「ロストテクノロジーで名は簡擁だ。戦闘用ではないのに青山で暴れたせいで電源が切れたままだったのだがな。さて、ちゃんと動くか」

 「青山――半年前に謎の爆発で形が変わったっていう青山か!」

 「ん? 何だお前知ってるのか。あれはこいつのせいだ。もっともメイン機能は俺と関羽の活躍を記録して活字にする事だがな。おっ、無事に起動復帰したみたいだな」

 簡擁は何やら呟いていたかと思うと、急に大声を出した。

 「あー! まだ5ヶ月と13日しか経過してないじゃないですかー! 半年間はダメですって言ってたのにひどいじゃないですか!」