暗い森

その中で斉と国交があるのは燕と、魏だ。この家のような商家であっても、国交の閉ざされた国の人間と関係を持つことは稀であるし、なにより危険だ。
ともあれ、食事をすませた陽麗は日頃している仕事をいつものようにこなしていた。
「陽麗、お客様がいらした。そなたも同席しなさい。」義父が声をかけてきた。よその国の人と話をすることはいままでなかったので陽麗の心は動揺した。
言わば応接室で義父と陽麗は客の来室を待った。
「失礼します。お客様をお連れいたしました。」
使用人が声をかけるとともに客が室に入ってきた。
客は男で、腰には剣をはいている。この時代には剣はどのような身分の者も持つことができる。年齢は四十代なかばであろうか。そして何より目を引くのは後ろに縛った髪が赤みがかっていることだ。
「も、もしや…」陽麗は思わず声を出していた。