すべては一通のメールから始まった。


「依頼内容はいたって簡単、株式会社アルペクスが管理する、『マルディウス』というネットゲームのサーバーをハッキングして欲しい、君ならできるはずだ。期待しているよ。報酬なら、欲しいだけあげよう、好きな額を言うがいいさ。」


 『劉備』と名乗る人間からの依頼メール。


 別に、この手の仕事事態は私にとっては珍しいことではない。


 しかし・・・。


「なんで、こんな愉快犯の手伝いを私がしなくてはいけないんだ?」


 私は画面越しに、タバコをくわえながら、一人ぼやいた。


 私の本職はハッカーではない。


 どこにでもいる、普通の結婚詐欺師だ。


 男をだまして、手玉にとって、もらうものだけあっさりもらって、トンズラこく。


 そういう職業を生業としていた。


 しかし、若さだけが武器のこの職業ではいつまでたっても食っていけるわけではない。



 だいたい、世の中、幸か不幸か、結婚詐欺だけでは思うように生活できなくなってきているのが、今の世の中である。



 ハッキングなんて、一見パソコンの知識がなければできないような気がするが、ソフトさえあれば、誰だってできる簡単な作業。



 個人データの引き抜きぐらい、今や小学生だってできる。