「さっきの子、お客さん?」


甘エビの軍艦巻をほおばりながら、母さんが聞いてくる。


「ああ、うん」


母さんは俺がホストをしている事を知っている。


「ほなまたフォローしとき〜や!」


生ビールをグイッと飲み干して、母さんは俺の背中をバシッと叩く。


母さんのこういう所が好きだ。


ホストという職業に偏見もなく、まぁ自分も水商売をしているから当然かも知れないが、「お客様は神様です」という接客業の基本も、俺は母さんから教わった。


それに、自分を客だと思われてあんな視線を向けられたにも関わらず、決して人を悪く言わない、母さんはそんな人だった。


心の優しい人でありたい。


名前に恥じる事のないように。


そんな俺のお手本となるのは、母さんと、後もう一人だけだ。


それからは他愛もない話をして、俺は仕事で店へと向かう為、午後7時前に母さんと別れた。