おばあちゃんのペースで、ゆっくりと肩を並べて歩いた。


普段なら1分くらいで着くような距離を、5分くらいかけて歩く。


終始ニコニコと笑っているおばあちゃんにつられて、俺も自然と笑顔になった。


お店に到着し、カウンターまで荷物を運ぶ。


「お腹減ってへんか?何か食べていき」


満面の笑みで、おばあちゃんはコンロに向かった。


「あ、用事あるから。また仕事の前に食べに来るわ」


キョトンとするおばあちゃんにクルリと背を向け、俺は右手を軽く上げると、急いで店を出た。


出勤前にまた来よう、そう思いながら。




やばいな、遅刻する…


時計を確認した俺は、目的地に向けて少し小走りで歩く。


プルルルル…


そんな俺を急かすように、スーツの左ポケットから、携帯の着信音が鳴り響く。


「もしもし」


「どこにいるんさ?」


「あ、ごめん。もうちょっとで着く」


「あ、そう。ほないつもの喫茶店におるから」


プツッ、ツーツー…