動くこともできず、ただ呆然と立ち尽くし恢を見つめていた。
どうやら荷物をまとめて身支度をしているようだ。

「街を、出るの?」

恢の背中に問い掛けると、予想外の言葉が返ってきた。

「知りたいんだろう」

「え……?」

相変わらず背を向けたままで声だけが返ってくる。

「吸血鬼のことを知るにはここじゃ資料が少なすぎる。お前が知りたいこと全部教えてやる」

荷造りが終わったのか、恢が振り向いた。
それは朝の『エリィ』に向けられた表情と同じくらい優しい顔だった。

「……私、恢の隣にいて良いの?」

「今更何言ってるんだ。それに、隣にいないと守れない」

恢が全て言い終わるよりも早く体が動いた。真っ直ぐに恢の胸に飛び込む。

「守られるだけは嫌。私も恢を守るわ」

「それは心強いな」

包み込まれるように恢の腕が背中に回り、大きな手で頭を撫でられる。


この手を、この安らぎを
誰にも奪わせない。

『バケモノに堕ちる運命』

だったらその運命を変えるまで。
抗ってみせる。

恢は私が守る。