『遅かったようだな』

生きている人は私の他に誰も居ないはずの部屋に、突然知らない男の声が響いた。

涙で前が滲んでいたけど、部屋の入り口に誰かが立っているのが見えた。

『誰?』

ずっと泣き続けていたせいか、口から出た声は驚くほど掠れていた。

『吸血鬼《ヴァンパイア》』

質問の答えが返ってきたときには、彼はもう目の前にいた。
彼を見上げると、恐ろしく青白い肌に、血のように紅い瞳が煌々と輝いていた。

『お願い。……殺して』

躊躇いはなかった。
両親を殺され、天涯孤独となった私には、明るい未来など見えなかった。
だから……。

彼は何も言わず、私の頬に触れた。あまりの冷たさにピクリと体が震える。まるで死体のような冷たさ。
彼は本当に吸血鬼なのかもしれない。

『二言は無いな』

彼の低い声が響く。
私は彼の紅い瞳を見つめてコクリと頷いた。

頬に触れていた手が首筋へと移動していく。

彼の髪が目の前を掠めたとき、微かに薔薇の匂いがした。

直後、首筋にチクリとした痛みが走り、私は意識を手放した。