するとその胸が悪くなるような匂いを、優しい春風が吹き消してくれた。 そしてその温かな風に乗って、アイツの甘い匂いがほのかに香る。 「花梨?」 名前を呼ぶと、肩をビクッと震わせてゆっくりこっちを見た。 目にはまだ涙が溜まっている。 パンダみたいな化粧なんてしなくても、綺麗で大きいアイツの目。 一瞬吸い込まれそうになる。 「おいで」 俺が手招きすると、花梨は恐る恐る小さな歩幅で俺に近付いてくる。 それが無性に可愛くて、思わず……。 「ぅわ、あ!」 「遅いよ」 抱き締めてしまった。