「……後妻の連れ子の存在理由」



小さく零した言葉は、雫希の耳に聞こえたんだろうか。


さっきまで不機嫌だった雫希が、俺を悲しげに見つめている。


同情か哀れみか……はたまた、軽蔑か……。



それきり車内には静寂が訪れる。



静かになった頭の中で、俺はゆっくりと思い出していた。



俺を疎ましがっている父からの、最後であろう命令。



「小野寺さんのお孫さんと、今日中に婚約を結んでしまいなさい」



その為にわざわざあの人は、


「……入りなよ」

「…………」



高校生が来るには不似合い過ぎる高級ホテルなんて用意したんだ。



……力づくでも何でも、雫希を手に入れろっていうことだ。



「……尊、アンタ正気なの?」


「当たり前だよ」



だって俺は、その為に育てられてきたんだから。



真っ白に統一された部屋のテーブルに、ポツリと置かれたケース。


宮越が用意した、婚約指輪が入ってる。



それに手を伸ばした俺の手に、雫希の小さな手が重なった。



「やめて尊っ。……こんなのおかしい」



家の為に幼なじみになり、家の為に結婚する。