私の十年は長い年月を越え、心の隙間をえぐり、
残酷な現実を運んで来た。


だけどあの日、私達が出会い、私達が過ごした輝いていた時代を、
もう一度蘇らせてくれた。


あの時、たくさんの人混みの中からめぐり会えた、
奇跡のような運命に、私はとても感謝をしている。


冬弓に恋したことも、優二を裏切った事も、
そして優二がもう居なくなってしまった事も、
全て私の力になり、穏やかに見つめられる日がきっと来るだろう。



私はもう一度、優二の手紙を読み返し、
しっかりと心の中に刻み込んだ。


もう二度とこの手紙を手に取り、読む事はないだろう。



そして 私は、それを捨てた。




サヨナラの向こうにあるものは、過去にすがる事ではなく、
先を見据えて行くこと。


サヨナラがくれた新しい力を、輝かせて行くこと。


誰もが壁に打ちあたり、叩きのめされ、立ち止まるその時に、
堂々と正面を向いていると言うこと。



孤独で、孤独で、ただひとり孤独の中で、
残像に縛りつけられていた私はもう何処にもいない。



人が空を飛べないように、憧れだけを夢み、永遠に報われぬままでも、
それは恥ずべき事ではなく、いつか叶うと信じていられる、
大きな希望のようなものだから。



優二、あなたの好きだった マイケルフランクスをかけよう。


囁くような歌声が、優二の声に聞こえてくるよ。


この青く、遠い大空の果てまで届いてと祈りながら、
繰り返し聞いた。



変わりばえのない日常の中で、 ”永遠“ に続く幸福が
この手の中で創られて行く。



誰もが望む、豊かな未来に、ゆっくり、慌てずに歩いて行く。