運命は悲しく動きだしていた。


その差出人の名前が、私の記憶から引き出されるのに、
少しの時間もかからなかった。


何か胸騒ぎを感じ、しばらくの間、開ける事が出来ずにいた。


私がここに住んでいることや、名字が変わっていることを知り、
会った事もない私に手紙を書き、送ることは、どんな意味を持っているのか。


そして何よりも、何故 優二からの手紙ではないのか。

様々な事が頭の中を回り続けている。



私は夫に、優二の話はしていたけれど、それは若い頃のボーイフレンド程度の話で、
まして冬弓の事など伝えられるはずもなく、
私を愛し、必要だと言ってくれた夫の耳に入れてはいけないことだけは、
何をおいても大事な事だった。


夫にだって、私が知らない方が幸せな秘密を、
持っているかもしれない。


でも、お互いを想いやり、素直に ”愛している“ と囁いていられる毎日が全てだ
と、
私は信じている。


この封筒の向こうにある何かに、覚悟を持って向かい合う必要があると、
私は直感していた。


大きく息を吐き、封を切った。




そこには私宛ての手紙が二通、ひとつは 「文香」 と書かれたもの。


もう一つは 見覚えのある優二の字で書かれた少し汚れた封筒だった。



「突然 こんな手紙をお送りする失礼をお許し下さい。
マリエさんの居所を探しておりました。」

美しい文字が並んでいる。



「こちらの勝手な思いで、マリエさんのご家庭に迷惑をおかけしてしまう事を
心配しておりますが、どうしても伝えなければいけないと思い、
送る決心を致しました。


驚かれると思いますが、夫 優二は昨年の夏、亡くなりました。


暴走したトラックに追突され、あっけなく逝ってしまいました。」