ひとしきり騒いだ祭の後のように、少しずつ賑やかさも引きはじめ、
テーブルには7~8人のスタッフを残すだけになった。


ライブの成功を誰よりも喜んでいたのは優二で、
こんなに酔った優二を見るのは初めてだった。


「冬弓さん、良い曲ですよ。僕頑張りますから。」


確かに優二の言う通り 切ないサビが 耳に残る大人の歌は、
何度も繰り返し聞きたくなる魅力あるものだった。


「そろそろお開きにしますか。それともホテルの部屋がいい?」


優二は名残惜しそうに席を立ち、冬弓に向かって言った。


「彼女を送ってから、ホテルに行きますよ。」

繋いだ指がほどけ、私の行き場を失った右手は、冬弓を追う。



こんな出会いは夢のお話。


冬弓の気まぐれに はしゃいでいるだけなのかと、ひとり立ち上がり、ドアへ向かい歩き出した時、回りの目を気にすることもなく、冬弓は私を引き寄せ



「721」


と耳元で言った。





「冬弓さん、怪しいなぁ。やめてくださいよ。彼女はダメですよ」


めまいに似た戸惑いが、冬弓の真実を探りかねている。


私に行き先を委ねるほど 私は確実に支配され、
それが今は、希望でさえあった。


優二は タクシーで私を送り、冬弓の元へと戻って行った。