あたしはそのまま卒倒した。何故こうもあんな男に、振り回されなければならないのだろうか…

しばし夢の中にいた。お母さんと暮らしていたあの頃の、幸せな時間…


「お…母さん…そこのうさぎ取って」

「く…っうさぎだって…」


夢の中で笑い声がする。その声が妙に感に障るのは、あたしだけ?


「取って」

「はいはい。うさぎね」


手の平に感じる体温。うさぎってこんなに暖かかっただろうか。


「正確にはうさぎじゃなくて、俺の手握らせただけなんだけどね」


まただ…お母さんじゃない、誰かの声。妙に腹が立つ。

だけど少し穏やかな…そんな声。


「…ありがとう」

「…千秋にありがとうなんて言われた事ねぇよ」


肌で感じたうさぎのぬくもり。握られた締め付けがきゅっと少し強くなる。