宗がユニフォームが入った袋を持って1階に降りると、母親の声がした。
 
 
「神山君来てるけど、何で?」
 
「ユニフォームあげるんや。中学の時に使ってて小さくなったやつ。練習用な」
 
「何でユニフォームなんかあげんの。別にいいけど、どうせ神山君からしたら必要ないのとちゃう?」
 
 
 一瞬、母が何を言っているのか宗には分からなかったが、しばらく考えて彼女に、遥斗が野球部に入ることを伝えてなかったのを思い出した。
 
 遥斗を外でずっと待たせるのも悪いので、とりあえず宗は母親の言葉には答えず、玄関へ行ってドアを開けた。
 
 
「ほい。これがユニフォーム。もう使わへんからお前のもんにしていいし」
 
「悪いな。助かるわ」
 
 
 ユニフォームが入った袋を受け取った遥斗が言う。
 
 じゃあ、と言って宗はドアを閉めようとしたが、思い出したことがあったので、もう一度ドアを開けた。
 
 
「どうした?」
 
「名前。ユニフォームに薄く俺の名前が残ってるから、吉田の上から濃く神山って書いといてくれ」
 
「ああ、分かった。じゃあまた明日な」
 
 
 宗は今度こそしっかりドアを閉めた。