「旨いか?」
 
「うん、おいしい」
 
 
 年が離れているせいか、宗は弟である弘也を憎らしいと思ったことが一度もない。
 
 笑いながらアイスクリームを食べている彼の頭を、撫でていると後ろから声が聞こえた。
 
 
「ただいま。これ何?」
 
 
 声の主である母親は、テーブルを見ながら言った。おそらく入部届のことだろう。
 
 宗は弘也の頭を撫でるのを止めて立ち上がると、紙の上部に書かれている『入部届』という文字を指差した。口で言っても良かったが、アイスクリームを食べているので止めておいた。
 
 
「ああ、入部届か」
 
「母さんの名前と判子だけでいい。あとは俺が書くから」
 
「了解」
 
 
 宗は母親にボールペンを手渡し、代わりに買い物袋を受け取る。それをリビングまで持っていき、ついでにアイスクリームの棒も捨てた。
 
 
「はい」
 
「サンキュー」
 
 
 母親の名前と、判が押されているのを確認して宗は2階へと上がった。明日の練習で使うユニフォームを遥斗が取りにくるので、用意しなければいけない。
 
 ちょうどユニフォーム一式を出したところで、玄関のチャイムが鳴った。