「ただいま」
 
 
 宗は家に帰ると、いつも通り挨拶をして2階にある自分の部屋へ向かった。

 
 カバンから白紙の入部届を取り出して1階に降りると、まだ4歳の弘也が駆け寄ってきた。
 
 
「お兄ちゃん、お帰り」
 
「ただいま。母さんは?」
 
「ゴトーに買い物やって」
 
 
 弟の口から、近所にあるスーパーマーケットの名前が出てきた。これでやっと疑問が解けた。
 
 宗は、母もすぐに帰ってくると思ったので、弘也を抱きかかえてリビングに向かった。
 
 テーブルの上に入部届を置くと、すぐに弘也が反応した。
 
 
「お兄ちゃん、それ何?」
 
「入部届……って言っても分からんよな。大事なもんや」
 
「にゅーぶとどけ……何で大事なん?」
 
 
 何でといわれると、難しい。4歳にはなかなか説明できない。
 
 宗はそれに答えずキッチンへ行き、冷凍庫からアイスを2本取り出して顔の高さまで上げた。弘也はそれを見て笑顔になる。
 
 彼の質問が答えにくいとき、宗はいつもアイスで話を逸らす。1年中使える技なので、かなり重宝していた。
 
 弘也にアイスを渡すと、やはりそれに集中して食べ始めた。