宗が携帯電話で時間を確認すると、ちょうど1時半になっていた。これから暑くなる時間帯だが、仕方ないだろう。宗はキャッチャーミットを手にとった。
 
 遥斗は先ほど地面に引いた線のところまで小走りで向かっている。宗から、ちょうどバッテリー間の距離になるように引いてある。
 
 
「いくぞ!」
 
 
 遥斗が左脚を後ろに引きながら振りかぶった。そのまま左脚を上げ、体が横向きになる。キレイなフォームだが、中学生時代に宗が教えたからだ。
 
 宗はそのまま遥斗が投げるのかとおもったが、彼はその態勢を保ったまま口を開いた。
 
 
「宗、言っときたいんやけど」
 
「なんや」
 
 
 距離が離れている――投手と捕手の間は18.44mある――ため、自然と声を張る。
 
 
「俺、今日はストレートしか投げへんし」
 
 
 宗は、その言葉に苦笑いするしかなかった。初めて硬球を投げる素人に変化球なんて投げれるはずがない。彼は返事をせずに、キャッチャーミットを構えた。
 
 中断されていた遥斗の投球フォームが再開され、その右腕からボールが放たれる。それは真っ直ぐに宗のミットへと向かっていき、すぐに乾いた革の音がした。