「松永さん……」
　
　
　亮が振り返ると、そこには笑顔を作った松永が立っていた。そしてやっと、ヨシダとカミヤマが怯えていた理由が分かった。
　
　先ほどまで松永は険しい顔をしていたのだろう。そう思うと亮には、今の松永が作っている笑顔も非常に怖く思えた。
　
　
「楽しそうやな。練習サボってまでするくらい楽しいことなら俺も混ぜてくれよ」
　
「いや、その……決して練習をサボっているわけでは……。後輩に対してうちの野球部を説明してまして……」
　
　
　まだ怖い笑顔のままな松永にビビりながら、亮は答えた。
　
　説明していたというのは嘘で、ただ単に雑談をしていただけだなんて、キャプテンである松永には言えない。
　
　
「説明なら俺がする。それに、多分こいつらは見学に来ただけや。とりあえず練習風景を見てもらうだけで十分やろう？」
　
　
　松永の言うとおり、ヨシダとカミヤマは練習の見学に来ている。簡単なものならともかく、詳しい説明をするのは入部してからでも十分だ。
　
　

「そ、そうですね……」
　
「分かったらさっさと守備につけ！」
　
　
　急に笑顔じゃなくなった松永の声を聞き、亮はすぐに一塁へと走った。