暫くどちらも言葉を発さずに、クスクスと笑って時を緩めた。


嵐の呼吸が、微かに届いてくる。


私は、真っ直ぐに嵐を見た。



前髪にかかる茶色い髪を、フッと息で浮かせてから

「じゃあな」

と笑ってドアから離れた。

「バイバイ」


なんて言いたくもないのに、言うしかなくて声のトーンが低くなる。


すぐに千里が戻ってきて、学校を後にした。

散々怒られたと、千里は不満を吐き出しながら、駅まで歩く。

ちゃんと相槌を打っていたはずが、途中ズレていた様で

「何か考え事?」

なんて千里に聞かれて焦って笑った。


「あ…違う違う!!」

「何か辛いなら、ちゃんと話してね?」

「うん。今は大丈夫」

「私は、友達でいたいんだからね」



千里。



此処にいてくれて、ありがとう。



私は、間違いなく救われている。



駅で千里と別れ、一人乗った電車。

いつもは癖の人間観察も、景色観察になっていた。



会いたい。
話したい。
好き。
好き。


ガタンゴトンに合わせて、何度も繰り返す言葉を、瞬きの度に胸に戻した。



嵐の誕生日。

私はちゃんと、笑顔で、おめでとうと言おう。

言ってやる。


好きだからこそ、嵐を苦しめたくない。