その日の放課後、千里が先生に呼ばれていたので、教室で千里が戻ってくるのを待った。


人気のない教室は、どこか圧迫感があり、綺麗な筋を残した黒板が際立つ。

『今日の日直やるじゃん』

それくらい黒板が綺麗だった。



静かに席を立って、黒板の前で止まる。

何か落書きしようと思っていたが、綺麗な筋を崩すのが嫌になり、そのまま教壇に立った。



グランドで部活をする生徒の声が聞こえる。

校舎内の何処からか、甲高く笑う女子の声が聞こえる。




切なくなる。




心が軋んで、後悔しそうになる。




だけど


此処に来たから嵐に会えた。

嵐を好きになったから、学校が楽しく思えた。



何事も、後悔していられない。


よくすれ違う廊下も、時々覗いてる後ろの扉も、ハンカチを貸したトイレ前も、呼び止められた階段も。

全てに嵐がいる。


嵐がいるから、恋をした。





「どした?」



誰もいない教室に、一番覚えてる声が響いた。



「嵐こそ何してるの?」

「俺?俺は呼び出し喰らった」

「嵐も?」

「あぁ…千里も上がって来るよ」

「二人で呼び出し?」

「俺ら無断でバイトしてたからな。バレたんだよ」

嵐はドアに肩を置いて、しかめた顔を上げた。