たった一言。

なのに、響く。


翌日、いつもの電車に乗り、学校へ向かった。

今日も校門前で嵐に抜かれる。


「おはよ」

鞄で悪戯に擦りながら、嵐は変わらない笑顔で言った。


「おはよう」


空気が止まって見える。


だから、嵐が澄んで見える。


だから、私も澄んでくる。



「お前、今日化粧濃くね?」


意地悪な嵐の言葉にも、落ちたりしない。


「いつもと一緒だっての」



追い越して行く嵐の後ろ姿を、私は思った以上に楽に見ていた。


教室に入ると千里が笑っていた。


「全部嵐から聞いた」

「ん」

「何でも言ってね?」

「もう、そうする」



千里は頭をクシャクシャと撫でて、額をピンと弾いた。


「我慢ばっかして!!」

「ごめんね…」



千里の気持ちが、心の隅の暗闇を溶かす。


いつか私が嵐を好きじゃなくなるまで、嵐を好きでいよう。

日の当たる場所だけが、幸せだとは限らない。



誰かが笑うと、誰かが泣く。


それが今の私なんだ。


先ずは、自分の足元を固めて、其処から先を見据えられる強い自分になる必要がある。


諦められないなら、そうするしかないんだ。