「美月!!」

本屋の前から、千里が私を呼び走り寄ってきた。


「あ!!嵐だし!!」

「おう」

「美月をナンパしないでよね」

「馬鹿言うな」


二人の会話を遠くに聞いていた。


「美月?どうしたの?」


千里がしゃがみこんで、私を覗いた。


「あ…何もないよ」


取り繕う笑顔は自分でも分かって、胸の奥がムズムズした。


「嵐…何か言ったの?」

「言ってねぇよ」


私が答えるよりも先に、嵐が答えた。


「あ、千里。面接どうだったの?」


話を逸らした。


「あ、合格!!明日からバイトだよ」

「良かったね!!」

「ついて来てくれて、ありがとう」


肩を竦めて、千里と笑い合った。


「お前ら時間大丈夫?」

「え…うん」

「飯行こうぜ」


思わず降ってきた幸せ。
学校以外の嵐の時間を、共有できるなんて。

スーパーを出て、駐輪場に停めてある嵐の自転車に、千里と私の鞄を乗せて、駅前のファミレスに入り、適当に注文を済ませて、料理が出てくるまで千里の面接の話で笑った。