恋と友情

◇◆◇◆


紫織を異性として意識するようになったのは、いつ頃だったろうか。


はっきりとは思い出せないが、いつの間にか『友情』が『愛情』に変わっていたのだ。


それに気がついたのはつい最近のことだった。


でも、ずいぶん前から紫織のことを好きだった気がする。勇貴の片想いは彼にとってこの上もなく苦しいものだった。


今までは待っていれば女の子のほうから近付いてきてくれたから、今回のような恋愛形式にははっきり言って初心者なのだ。


しかし、別れ話に関してはこれまで相当場数を踏んできているので自信がある。あんな風になったのも、今回の友希子が初めてだった。


いつもならもっとうまく別れてしまうのに、今度ばかりは駄目だった。


とにかく、今の勇貴は自分のペースというものを完全に乱してしまっている。要するに彼は紫織がらみのこととなるとてんでだらしなくなるのだ。


そんなことを考えながら、勇貴は帰り道にある小さな喫茶店でぼーっとしていた。目の前にはコーヒーの湯気が漂っている。


はぁー、と大きな溜め息をつく。


「し・お・り」


不意に聞こえた声に、勇貴はビクッとした。