世界中の音が、私の声にかき消された。
トラックはスピードに乗り出したあと少しだけ移動すると、ゆっくりと停止した。
私は思い切りに、トラックの助手席の下まで駆け抜けた。
息を切らしながらやっとの思いでそこまで到着すると、助手席の窓から八重ちゃんが身を乗り出して待っていた。私は、見上げるようにして手を伸ばす。八重ちゃんも手を伸ばし、小さな手と手を、しっかりと繋ぎあった。
「ごめん、ごめんね」
私は泣いていた。多分、ぐしゃぐしゃな顔をしていたと思う。うん、うん、と頷きながら、瞳をうるませ、八重ちゃんも泣いていた。
「これ」
手に握っていた、クマのキーホルダーを差し出す。
『ありがとう』
受け取りながら、涙に掠れた声で八重ちゃんが言った。胸にキーホルダーを大切そうに抱いて、大粒の涙を流しながら、少しだけ微笑んだ。
『今まで、言えなくてごめんね』
「ううん、いいよ。わかってるから」
私がそう言うと、八重ちゃんは顔を歪めて、鼻をすすり上げた。
『また、絶対に会おうね』
私は大きく頷いた。
『約束だよ』
「うん、約束」
互いに見詰め合ったまま、何度も、何度も頷きあった。
ふいに、辺りに白い霧のようなものが立ちこみ始めた。霧はどんどんと深くなっていき、目の前にある八重ちゃんの顔すらもぼんやりとして、段々と見えなくなっていく。
私は握った手に更に力を込める。
「私のこと、忘れないでね」
『忘れないよ、絶対。わたしも、だよ。忘れないで』
「絶対、忘れない」
八重ちゃんはにっこりと微笑んだ。私も笑顔を見せた。
握られていた手が、段々と離れていく。指と指が擦れあいながら、深い霧の、真っ白な世界の中――、
八重ちゃんの声だけが、はっきりと耳まで届いた。
『それじゃ、続きは、夢の後で』

