おみやげ


 玄関を飛び出すと、私は遠い記憶を頼りに、大親友の家へと向かって必死に走った。あの後、彼女も泣いたのだろうか。自分の為に、涙を流したのだろうか。
 そんなこと、あってはならない。手を取り合って、互いの為に、涙を流さねばならないのだ――。
 突き当たった角を左に曲がり、右に曲がり、ひた走る。息が苦しい、喉の奥から何かがせり上がってくる感覚。間に合え、間に合え、間に合え――
 何本目の角を曲がっただろうか。自分の記憶が不安になってきた頃のことだった。その角を曲がった瞬間、トラックの後ろ姿が目に入った。同時に、この通りの風景が、私の記憶に強いフラッシュバックを働きかける。

 ここだ――

 トラックにエンジンが掛かる。私は既に限界速だったスピードを更に上げ、走る。トラックがゆっくりと前進を始めた。この距離じゃ、間に合わない――
 私は有りうる限りの力を振り絞って大親友の名前を叫んだ




「八重ちゃん!!!」