観測を済ませると久志は望遠鏡を担ぎ出し、リビングの隅に置く。
丁寧に〜。
丁寧に扱う。
レンズを専用のクリーナーで磨き上げ、カーテンの布を切り出した淡い色のカバーを被せた。
この片隅だけが、彼の日常の主たる場であるリビングの…当たり前だが…。
普通、日常はリビングにある。
しかし、久志の日常空間は〜。
ここが当たり前ではない。
綺麗に掃除された場〜なのだ。
従って〜。
「フー」
と溜め息を吐いて座ったソファーは…。
目の前にあるテーブルは…。
埃をかぶっているのか〜?。
日を浴びて色あせてしまったのか〜?。

どうにも…。

弁護してやろう。

クラシカルなムードを漂わせている。
その周りはというと…。

弁護しきれない。

雑誌やら、新聞やら、広告のチラシやら、どうにでもなるだろう、その気になれば…片付く…類のモノでせっかくのマンションの見栄えの良さをぶち壊しにしている。
テーブルの中央に積んである本だけが、体裁を整えている。
「天文学」
の本である。
これで本人は至って気にしていないのだから、とやかく言う必要はない。
ただ…きれい好きな妻〜でも居れば〜勝手は違うのだが〜完璧な一人暮らしである。