朝起きたら、誰もいなかった。
十一時を回っていたので、朝と呼ぶにはどうかとも思うけど。
リビングのテーブルには、近くのパン屋の袋と、メモ用紙が一枚。
中を覗くと、クロワッサン、クリームパン、フルーツデニッシュ、メロンパン、チョココロネ、あとサンドイッチが入っていた。
メモ用紙を手に取る。
ナオが書いた、愛しい癖字。

『おはよう。ちょっと出てくるね。
夕飯、何か買って帰るよ。
パンは、好きなのなんでも食べていいって。
 行ってきます』

ふーん、と小さく言って、メモを戻す。
『食べていいって』って事は、これはトラが買ってきたのだろう。
今日も試合だとかなんとか、昨日ナオと話していたな、そういえば。
試合前にわざわざパン屋に行って、皆の朝食を買ってきたのだろうか。
ご苦労なこった。
だいたいあたしはカレーパンが好きなのだ。
それに、こんなに買ってきて、多すぎだっつーの。

「あ」

ふと気がついて、舌打ちした。
そして気づかなければよかったと唇を噛んだ。
あたしの好みなんか知りやしないから、こんなに買ってきたのか。