彼女の父親は地元では名の知れた会社社長で、彼女は大切に育てられた箱入り娘だった。

門限が厳しく、ピアノやお茶、お花など、お嬢様にはお約束の習い事もしていた為、バイトをしている俺とはなかなか時間が合わずデートもゆっくりは出来なかったが、それでも彼女が俺の傍で笑っていてくれることが嬉しかった。

彼女はいつも優しくて、自分の事より俺の事を優先して考えてくれた。

バイトでミスをして落ち込んだ時、門限が厳しい事を承知で「今夜は傍にいて欲しい」と我が儘を言った俺に見せた戸惑った表情は、今も忘れられない。

あの日、彼女は初めて無断外泊をした。

「勘当されたら拾ってよ?」と冗談のように言って笑っていたが、本当は父親に酷く叱られることを覚悟しての、かなり本気の台詞だったらしいと、随分後になってから知った。

その夜、初めて抱いた彼女は生まれたての子猫のように柔らかくて、強く抱きしめると壊れてしまいそうだった。

俺を酔わす甘い声が心地良くて、抱きしめてくれたしなやかな腕が温かくて、本当に彼女が俺のものになったのだと実感できた。

彼女が俺の腕の中で笑っていることが、ただ嬉しくて…

徐々に自分の色に染まっていくことが幸せだった。